日本はワクチン後進国から抜け出すことができるのか?―風疹の流行に見る日本のワクチンを取り巻く現状

2018年、日本では風疹流行の話題が全国を駆け巡りました。年間を通じて2,500件近くの風疹の例が見られ、その7割近くが首都圏で報告されています。

風疹は風疹ウイルスに感染することで引き起こされる病気です。発熱や発疹を代表的な症状とし、大人がかかると合併症を引き起こし重症化することがあります。加えて、妊娠中の女性が風疹にかかると眼や心臓、耳に障害を持つ先天性風疹症候群の子が生まれる可能性があり、日本における風疹の流行を受けてアメリカのCDC(疾病予防管理センター)は警戒レベルを3段階のうちの2番目に引き上げ、特に妊娠中の女性に対しては当面渡航を自粛するよう勧告しています。

風疹は一度発症すると対症療法しかなく、ワクチン接種による予防が現在最も効果的な対策です。現在日本における風疹の罹患者は定期接種の機会を逃してきた30~50代の男性に多く見られます。この背景には、1970年以降にワクチンの副作用をめぐって政府を相手取った訴訟が相次ぎ、政府がワクチン定期接種の導入に消極的だった経緯があります。2020年のオリンピックに向けた対策も兼ねて、日本政府はこの年代の男性に風疹ワクチンの接種を2019年から無料で行う方針を先日発表しました。

現在日本では、7歳までに2回の風疹の予防接種を無料で受けることができます。しかし、予防接種の時期が決まっておりその時機を逃すと自己負担での接種となることや、ワクチンの接種が推奨されているものの、ワクチンの接種を行っていなくても公立の小学校に入学できないなどの罰則がないことから、他の先進国に比べるとまだまだ後れを取っていると言わざるを得ません。


日本における「ワクチン・ギャップ」の背景

日本がワクチンの開発及び普及において世界から後れを取っている主な理由の一つに、日本におけるワクチン生産の市場規模の小ささが挙げられます。2017年の世界におけるワクチン市場を見てみると、グラクソ・スミスクライン(GSK)Merck&Co.SanofiPfizerの4社で世界の市場シェアの8割以上を占めています。現在国内でワクチンの開発、製造を行っている代表的な企業としては北里第一三共ワクチン株式会社武田薬品工業株式会社アステラス製薬などがあります。GSKのワクチンの売り上げ(7,482億円:2017年度)と第一三共のワクチン事業の売り上げ(417億円:2017年度)を比べてみると、その規模の差は歴然です。国別では日本は世界のワクチン市場の約8%を占めていますが、医薬品全体では日本は世界の市場の13%を占めていることを考えると、ワクチン市場にはまだ成長の余地があるでしょう。

ワクチン開発には多くの予算と時間を費やす必要があることに加え、ワクチンが承認される前から大量生産可能な設備を用意する必要があるため、小規模な企業にとっては参入が難しいのも現実です。また、2015年には、国内最大級のワクチン供給組織であった化学及血清療法研究所(化血研)が、長年にわたって国の承認と異なる方法で血漿分画製剤を製造し、その記録を隠ぺいしていたとしたことが明らかとなり、厚生労働省から事業譲渡を求められました。これを契機として日本国内でも再編への圧力が高まったこともあり、近年ワクチン分野において様々な企業再編や統合合併が見られます。代表的な例を以下に紹介します。


  • BIKENの設立(2017年9月)

田辺三菱製薬が、ワクチン製造事業を基盤とした合弁会社であるBIKENを設立しました。水痘ワクチンとインフルエンザワクチンを主な製品としています。インフルエンザワクチンについては国内での供給が足りなくなることも多く、生産基盤を強化して安定した供給を目的としています。

  • 第一三共による北里第一三共ワクチンの完全子会社化(2017年11月)

2011年に設立した北里研究所との合弁会社である北里第一三共ワクチンを完全子会社化すると発表しました。2019年4月には生産に特化した子会社とする予定だと発表しています。

  • KMバイオロジクスの設立(2018年3月)

KMバイオロジクスは化学及血清療法研究所(化血研)の人体用ワクチン製造を含む主要事業を承継し、Meiji Seikaファルマをグループ会社に持つ明治ホールディングスの連結子会社として事業を開始しました。KMバイオロジクスの主な製品にはインフルエンザ、DPT-IVP(四種混合)、日本脳炎のワクチンがあります。

  • ジャパンワクチンの解散(2018年11月)

GSKが、日本でワクチンの開発と営業を行うため2012年に設立した合弁会社であるジャパンワクチンを解散することを発表しました。上記北里第一三共ワクチン株式会社の子会社化と同様、事業体制強化の一環だとしています。


承認や定期接種化までのプロセスの迅速化

事業再編や統合合併による競争力の強化と市場の拡大に向けた取り組みが行われる中、もう一つの障害となっているのがワクチンの承認プロセスに時間がかかることです。国内におけるワクチン開発・製造自体が多大な時間と費用を要する上に、海外で製造されたワクチンを輸入する場合でも、一度アメリカの食品医薬品局(FDA)ヨーロッパの欧州医薬品庁(EMA)で承認されたものであっても再度国内で治験や審査を行う必要があるため、他国に比べて導入に時間がかかります。

加えて、定期接種への採用となるとさらに厳しい審査によって安全性を確かめる必要があります。例えば、おたふく風邪のワクチンは2015年時点で世界121か国において定期接種が行われるようになり、先進国ではほとんど見ることのない病気となりました。一方日本では、おたふく風邪ワクチン接種後の無菌性髄膜炎の例が問題視され、1993年におたふく風邪ワクチンの定期接種が廃止となりました。その後幾度も議論が交わされていますが、MMR(麻疹、おたふく風邪、風疹)ワクチンが国内で承認されていないこともあり、現在でも任意接種のままです。日本耳鼻咽喉科学会による調査では、2015年と16年の2年間で少なくとも348人がおたふく風邪に起因する難聴になったことが明らかになっています。

安全性の確保は当然優先すべき事項ですが、災害時に工場が機能しなくなり、ワクチンの供給が不足した事例も過去に何度か見受けられます。安定した供給のため輸入ワクチンの接種をもっと簡単に行えるようにするなどの対策が必要となるでしょう。


ワクチン業界の今後

これまで日本ではワクチンというと小児向けの物が中心でしたが、成人に対するワクチン接種の重要性が近年見直されており、従来のワクチンに加えてがん予防のためのワクチン開発も積極的に行われています。TPC マーケティングリサーチ株式会社の調査によると、世界のワクチン市場は2021年までに約2兆7,000億円規模に達し、2017年から約16%の成長が見込まれています。また、日本の市場も2024年までに2015年から比べると6.5%の成長を見せ、2450億円規模に達すると富士経済が予測しています。EvaluatePharmaによると、2024年には国内メーカーである田辺三菱製薬が世界10位のワクチン供給元になると予測されています。同社は先月、世界最短の1か月で製造可能なインフルエンザワクチンを近日中にアメリカで承認申請することを発表しており、今後の動向が期待されます。

今回述べた問題に加えて、日本においてはワクチン接種による副反応について正しく認識されておらず、過剰に反応する風潮も見られます。予防医学の重要性が認められてきている今、ワクチン事業へのさらなる取り組みが期待されます。リアルライフサイエンスでは、業界の最新情報や市場の動向を日々お届けしています。ご興味をお持ちの方はリアルライフサイエンスジャパンのマネージャーである山條春子か、[email protected]までぜひご連絡ください。私たちのLinkedInアカウントでも最新の情報をお届けしていますので、ぜひフォローをお願いします。

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